2012年12月28日金曜日

2012年・仕事納め


独立して初の仕事納めとなり、おかげさまで無事に年越しできることを嬉しく思い、少しホッとしています。2012年を振り返る意味でも、なんとなく思っていることを備忘録的に書き留めておきたいと思います。

時間とお金
独立すると「時間」と「お金」と、今まで以上に向き合わざるを得ません。これに「健康」を加えれば、仕事の三大資源ですね。そういえば、日本では(海外はどうか分かりませんが)時間とお金についての教育が、あまりされてこなかったように感じます。時間の使い方の授業なんてありませんし、お金の話もどちらかというとタブーな話題とされてきました。時間は誰にでも1日・24時間ありますので、使い方はもしかしたらお金以上に大事なことかもしれません。今年は、意識的に早朝(5時頃)から仕事をするようにしましたが、とても頭が冴えて効率的でした。来年も朝型でいくつもりです。

大企業と中小企業
「こんな時代だから、先が読めない」というような発言をよく耳にする1年でした。実はどんな時代でも未来は読めず、景気が良いときは先が読めなくても前進している気になる。そう思います。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と、方丈記でも詠まれているとおり、いつの時代も諸行無常であることを忘れてはなりません。インターネットが普及した社会では、論理で未来を読むよりも、直感でまず始めて修正していくほうが成果を出しやすい。そんな時代なので、小回りのきく中小企業の方が、大企業よりもフットワーク軽く活躍の場があると感じています。就職ランキングで中小企業が次々にランクインしてくる日も近いですね。

都会と田舎
養老孟司さんの本で「都会は脳で、田舎は身体である」という言葉があります。都会とは人間が脳で考えた建造物で成り立っており、田舎は科学が進歩してもなお未知が多い身体のようなものである。そのような意味です。自分が住んでいる浜松をはじめ、地域の魅力を考える上で、とても大切な考え方だと思っています。田舎の街が都会だと背伸びをしたところで、足りないものばかり目についてしまいます。田舎なりの身体の活かし方を見失わないこと。森林、海、農作物。浜松を田舎という角度から見ると、見えてくる魅力があると日々感じています。

2013年は、いよいよ事務所の改修です。借りたばかりなのに改修から始まるという不思議なビルです(笑)※かぎやビルについての記事はこちら。同じビルの2階に本屋をオープンした若木信吾さんをはじめ、ここに集うクリエイターや来客する皆さんと、浜松を(古いビルから)発信していければと思っています。来年もどうぞよろしくお願いします。

【最後にお知らせ】
誠に勝手ながら新年は8日からの仕事始めとなります。お問い合せは8日より順次返信させていただきます。

【55634ホームページ】http://55634t.com

2012年12月21日金曜日

小山歯科医院|子象が増えた

普段、歯のことでお世話になっている『小山歯科医院』さんのロゴマーク、名刺、看板、車のカッティングシートをリニューアルさせていただきました。当初リニューアルをするにあたって、最も気になっていたことはシンボルマークの「象」の取り扱いでした。リニューアルの際に活かすべきか、なくすべきか、悩みました。
リニューアル前の看板を見ると分かるとおり(分かりにくいかも?)象が小山歯科医院のシンボルで、色々なところに登場しています。この象は、開院のときに院長自らが考えた、とても愛着があるキャラクターであると聞きました。お医者さんは身近な親しみやすさが大切ですし、長年愛されてきた象をあえて残す方向でアイデアを考えました。その中で「小児歯科に力をいれているのに、子象がいない?」ということに気が付きました。パッと見た時に、象の親子が楽しそうに歯磨きをしていて、親子で安心して来院できるイメージをつくることを決めました。
まずは、親子の象の書き起こし。親象と同じテイストで子象を描きました。モノクロの線で見ることで、色にごまかされることなくバランスを見ることができます。
重なり具合や色合いなどを検討して、親子の象の完成です。この提案には院長も驚いていました。リニューアルを依頼した時点で「きっと象はいなくなっちゃうだろうな・・・」と思っていたそうです。デザインというと「カッコイイもの」というイメージが世間にはあり、その中には、デザイナーに対して「意見を聞いてくれず自分のイメージを押し付けてくる」という、ネガティブな印象を聞くこともよくあります。しかし、僕たちは黒子であり、デザインは自分のもの(作品)ではないので、まずは依頼者の話に耳を傾けるのは当たり前のことですよね。話を聞いていく中で、残すべきもの、変えるべきものを取捨して判断をうながすことが、僕の役割であるといつも考えています。
看板は少し面が小さいこともあり、インパクトのある象の親子をデザインしました。もちろん「小児歯科」が明るく目立つようにしています。
そして、車のカッティングシートは「親子でシーソー」です。横長のスペースをどのように活かすかを考えながら、遊びの要素を取り入れました。左右の上げ下げのバランスを調整するのが難しかったですが、かわいらしく仕上がったと思います。
車のシートはもちろん自分で貼ったわけではなく、日伸工芸の石川さんに施工を依頼しました。看板からカッティングシート、展示会など、幅広く対応してくれる会社で、仕事もとても丁寧です。寒空のなか1時間半ほど、慎重にシートを貼っていただきました。お疲れさまでしたm(__)m

2012年12月20日木曜日

印刷物は、無くなるのか。

iPadやKindleなど、電子書籍端末の普及にともない、「紙」の印刷物はこれまでにない危機を迎えようとしています。デジタルと紙。うまく棲み分けて今後も同じようなシェアで共存していくのか、それともデジカメがカメラの主流になったように(最近ではスマホに奪われつつある)電子化の波にのまれていくのか。

デザインにおいてもパンフレット、名刺、ポスターなど、
まだまだ紙媒体は多数を占めています。しかし、そもそも紙媒体が日本で普及した歴史をよく知らないので、「紙に印刷すること」の意義を考えるために、印刷博物館に立ち寄ってみることにしました。ちょうど「印刷都市東京と近代日本」という企画展を開催していて、日本における印刷の歴史を「点」ではなく「線」として知ることができました。
ヨーロッパで木版印刷機が登場して、日本に伝わったのが18世紀。日本でも木版印刷機で挿絵を刷ることが可能となりました。1774年に印刷された解体新書』をはじめ、幕末から文明開化にかけて、政治と経済に関するもので印刷物が爆発的に普及したそうです。その後、自由民権運動で高まる言論活動やジャーナリズムで、印刷の種類と部数は大幅に増えたということです。

1890年には日本の議会開設にともない、写真製版が実用化。イギリス発祥の輪転印刷機が導入され、1000年以上にわたり日本の印刷の主流だった木版印刷が衰退していくことになったそうです。2000年以降は、デザインにおいてもパソコンでレイアウトすることが主流になり、印刷を取り巻く環境はデジタル化がいっそう進みました。

これらの流れを把握しながら気づいたことは、印刷と政治の関係。やはり政治には「広く伝える」という行為が不可欠であり、その手段として印刷が栄えた側面があるようです。今ではその手段はホームページやTwitterに取って代わられることも多く、政治家、学者、作家、ジャーナリストなど、多くの方々がインターネットを通じて発信をしています。

ということは、電子書籍だけではなく、すでに「伝える」手段はインターネットへ主権が移りつつあるのです。その動きを踏まえて「紙に印刷すること」の長所を考えると、アナログ的な温かさというか、手に取るという行為。そして、印刷物と言うように「物として残る」という点。デザインをする上でも、こうした良さを感じながら1つのツールとして向き合う必要性を感じました。これからも紙の媒体をデザインするときには、印刷物であるメリットを常に考えながら、デジタルとの相乗効果を考えていきたいと思います。

2012年12月13日木曜日

はまクリ忘年会2012


2011年に発足した(僕が発起人でもある)「はままつクリエイティ部の忘年会を開催しました。はままつクリエイティ部(通称:はまクリ)の運営部員はたったの3名ですが、こういった集まりに20名以上の方が集まる(東京からこのために帰省する参加者も)といった不思議なコミュニティです。

もちろん、このような「ゆるやかな集いの場」をある程度は意識的につくっています。これまでの時代、いわゆる「組織」はまず「目的」がありました。そして、組織の巨大化もしくは常態化にともない「目的」があいまいになり、集まることがひとまずの目的になってしまうケースが数多くあったことだと思います。

その一方で、はままつクリエイティ部の場合は「目的」ではなく「価値観」に人が集まっています。業種は違うけど同じような価値観を持っている人たちが集まり、つながることで、何かが起きるきっかけになる。ゆるやかに人が集い、情報交換や仕事のつながりが無理なくできていく。そんな場になればと思っています。

“うまく言えないけど価値観が違う”と、恋愛の別れ際でもよく使われるように、価値観なんてそもそも言葉にできるものでもないし、目に見えるものでもありません。たとえば、話をしていて気が合うとか、少ない言葉で意思が通じるとか、同じものを見て美しく感じるとか、なんとなく感じるものだと思います。

また価値観が近い人とは、共感するスピードが速く、あうんの呼吸が生まれやすいのも事実です。この目に見えない「共感」は、間違いなくこれからの時代を切り開くキーワードだと僕は考えています。もちろん、はままつクリエイティ部に「目的」がないわけではなく、こうした化学反応(感性のつながり)が増えることによって、次世代によりよい浜松を残すことを1つのテーマにしています。今後も継続的にじわじわと進化していければと思っています。

はままつクリエイティ部 facebookページはこちら

2012年12月7日金曜日

カギヤビル


このたび、ひょんなきっかけから事務所を借りることになりました。不動産会社を経営する高校時代の同級生から、浜松でさまざまなクリエティブな人が集う「クリエイターのための場所をつくりたい」という話があり、その意志に賛同をしたからです。(詳細はこちらの記事をご覧ください。http://www.at-s.com/news/detail/450475900.html

浜松にゆかりのある方なら、この写真を見ただけで場所が分かる方もいらっしゃるのではないでしょうか。昭和35年に建てられたので、なんと築52年。浜松の街中の端っこあたり。浜松駅からは徒歩7分ぐらいだと思います。

僕は独立するにあたり、事務所は持たない方針でした。というのも、仕事柄、創造的に考えることには頭を使い、作業的なことはMacさえあればできるので、スペースとしての事務所は必要としないからです。また、打ち合わせもクライアントの事務所、もしくはカフェですることがほとんどです。

ではなぜ事務所を借りることにしたかというと、アイデアの生まれ方が大きく関係しています。アイデアが生まれるときは、椅子に座って考えている時よりも、歩いていたり電車に乗っていたり「動」いていることが多く、雑談(会話の動き)からも生まれます。それは一見、無駄に見えるような時間かもしれません。しかし、そこに創造力のエッセンスが詰まっていて、事務所を借りることで様々な動きが生まれる(=アイデアが生まれる)と考えたからです。つまり、自分の生活の中に強制的に「動き」を入れる。それが事務所を持つ大きな理由です。

実際に事務所内部はこんな感じで引き渡し。さすがに年季が入っていて修復が必要な箇所もありそうですが、現状復帰は考えなくていいとのことで、壁塗りから床張りからすべて自分で考えることになります。この時点ですでに創造性が問われますね。浜松の街中が栄えていた時代から、郊外へと人が流れ空洞化してきた時代まで、この街の流れを端っこから見てきた52歳のビルに、色々なことを学ばせていただきたいと思います。そして、新しい時代のちょっとしたきっかけにもなれたら幸いです。

『カギヤビル』facebookページ:http://www.facebook.com/kagiyabldg?fref=ts

2012年11月29日木曜日

豆のさがみや


東京・品川にある中延(なかのぶ)商店街。その地で創業70年以上になる「豆のさがみや」さん。昔ながらの製法でつくる甘納豆や落花生、おかきが並ぶ老舗です。今回、中延商店街の事務局長、大庭さんとのご縁で、ロゴマーク、パンフレット、ホームページを制作させていただきました。

老舗であるほどデザインにおいて歴史への敬意が大切だと、僕は思います。たとえば、先代からのお付き合いなどで昔からのお客様が多く、大きな変化はお客様に好まれないこともあるからです。その一方「日本の食文化」をこれからも守るためにも攻めの一手が必要で、やはり少しずつ前向きに変化する姿勢が大切なのだとも思っています。
ロゴマークは、歴史を感じさせながらも若い世代に受け入れられやすい印象に仕上げました。「豆」の漢字をモチーフにして、おいしさが二重丸という意味を込めています。マークは、豆を釜で煮るときの様子を模しています。


パンフレットとホームページについては、とにかく素材の良さ、店主の職人としての実直な姿がそのまま伝わるように配慮しました。なにより70年の歴史を持つお店なので、無理に良く見せようとか小手先でデザインする必要などは全くなく「伝えるべきこと」を伝えれば、それが最もふさわしいデザインになると思っています。

今回は縁があって東京での仕事でしたが、東京らしくないというか、中延商店街のほのぼのした雰囲気がなんとも懐かしく、東京の下町の魅力を感じる仕事でもありました。

●豆のさがみや:http://mamesagami.com

2012年11月21日水曜日

ぬくもり工房|ロゴマーク

織物の産地として栄えた遠州地方で、今もなお伝統を受け継ぐ遠州綿紬(えんしゅうめんつむぎ)。その遠州綿紬の生地や雑貨を取り扱う「ぬくもり工房」さんのロゴマークをデザインさせていただきました。

由緒あるものを受け継ぐ会社のロゴマークなので、デザインを考えるにあたって、2つのことを大切にしました。1つ目は、古風になりすぎない「和」を感じること。もう1つは、目にした人が温かみを感じること。ロゴマークだけでそれらを表現しきるのは難しいことですが、こうした想いをもとにデザインすることによって、意志が込められた印象に残りやすいロゴマークになると考えています。
デザインはご覧のとおり、神社の鳥居がモチーフです。実は、浜松市の三ヶ日町に、織物の神様とされる織姫様をまつる「初生衣神社(うぶぎぬじんじゃ)」という神社があります。遠州織物の発祥に深くかかわる場所であり、ぬくもり工房社長の大高さんも、その縁をとても大切にしてお参りされている神社です。

神社の鳥居をモチーフにすることに迷いもありましたが、地元の伝統を次世代へと引き継ぐ意志があるからこそ、使わせていただくことにご理解が得られると思い、初生衣神社の宮司さんに了承を得た上で、願いを込めて使わせていただきました。
鳥居の中には、「十二単衣(じゅうにひとえ)のかさね色」に用いられる12色の和の伝統色を使用。遠州綿紬の特徴でもある「縞柄」の彩りをつくりました。来年には大きな動き(挑戦)も控えているので、地元ではこのロゴマークを多くの方が目にするかと思います。

2012年11月15日木曜日

「分かる」と「感じる」は違う

言葉はあくまでも「道具」である。そう思うことがよくあります。言葉の力を過信しすぎると、「分かる」ことや「説明する」ことばかりを重要視して、人間の直感による「感性」の部分を見落としがちになるからです。

たとえば身近なところでは、Googleマップを見て行った気になるのは「分かる」こと。実際に現地に行って街を歩いてみるのは「感じる」ことです。街を歩いてみると、気候や街なみ、現地の人も含めて、その街を好きにことがありますよね。このことはデザインにおいても同じことが言えます。

例を挙げれば、名刺。ご自分で名刺を作ると、言葉で情報を詰め込もうとしがちです。言葉で「分かって」もらいたい。しかし、名刺には言葉のほかに、紙の種類、厚さ、書体、文字の配置、ロゴマークなど、さまざまな要素があり、受け取る側はそれらを総合的に「感じて」いるのです。つまり「私は信頼できる○○です」と言葉で載せるよりも、紙の厚さを厚くするだけで名刺を受け取った相手に「信頼できそうだ」と感じてもらえる可能性があるのです。

そして、「分かる」より「感じる」ほうが、人の記憶にはるかに残ります。

これからの時代は、論理的に長けた人よりも感性が豊かな人が活躍する時代。そして、その感性を支持するファンや顧客によってコミュニティができる。そのような時代にシフトしていくと考えています。

2012年11月8日木曜日

整理力と創造力


仕事柄、いくつものプロジェクトが同時進行することが多いので、頭の整理も兼ねて、週1回はデスク周りの掃除をするように心がけています。目に見えるものが散らかっていると、頭の中もゴチャゴチャしやすく、視覚から受ける影響はとても大きいと日々感じています。

僕の場合、整理をするときには、最もキレイにしたい場所からではなく、最も関係ない場所から整理を始めます。というのも、最近使わなくなったのに居座っているモノが多く、忙しかったりすると「とりあえず置いておく」場所は、たいてい重要ではない場所だからです。Aを片づけたかったら、先にCを片付ける。Cにスペースが空くと、BのモノをCに移動できる。するとBにスペースが空き、AのモノをBに移動できる。このようにC→B→Aと順番に整理すると、部屋全体が整理でき、まるで玉突きのように片付くので、この片付け方を「玉突き整理術」と個人的に呼んでいます。

実はブランディングにおいても、“情報を整理する”ことは、クライアントからお話を伺ったあとに一番初めに行う作業でもあります。情報を整理すると“何を伝えるべきか”が見えてきて、優先順位がはっきりするのです。

デスク周りも頭の中もスッキリ整理しておくと、そこにスペース(余白)ができる。この余白こそが、自分の中で創造力を働かせるのに最も大切だったりします。

2012年10月30日火曜日

ボランツーリズム〜落合楼村上〜


「旅館の清掃」をすると、その対価として「宿泊代が無料」になる。この取り組みを主催するNPO法人サプライズの飯倉さんから声をかけていただき、「ボランティア」と「観光」を引き換える『ボランツーリズム』に参加してきました。

場所は、落合楼村上旅館。伊豆の天城湯ヶ島温泉にある老舗旅館です。4000坪もの敷地に、わずか15室。金山で財を成した資産家が明治7年に創業し、昭和初期に金山を売却して建て替えたそうです。その建築費用は、現代に換算すると25億円にものぼるそうです。





旅館に着くと落合楼のご主人、村上昇男さんが館内を約1時間かけて、じっくり解説をしてくれました。国の重要文化財である階段をはじめ、100年で3cmほどしか太くならない、樹齢およそ800年ほどの紫壇(しだん)の銘木を使った柱など、素材を見るだけでも凄みを感じる箇所が、館内のいたるところにありました。

  



そして、圧巻だったのは日本の伝統の技、組子細工(くみこざいく)。細部にわたり職人の手業が感じられ、釘や接着剤を一切使わずに、障子にはめ込まれています。200もの文様があるといわれる組子細工の中でも、最も難しいとされる技法を用いられた柄もあり、現代においては再現することすら容易ではないそうです。

 

そして、いよいよ清掃へ。108畳もある宴会場や廊下を20名ほどでキレイに仕上げていきました。電飾や窓ガラスなど、万が一にも割れた場合に、現代においては同じものが見つからないものもあり、とても慎重な作業となりました。





天井のすすを払い、窓ガラスのサッシを丁寧に吹き、最後はみんなで一列に並んで雑巾がけ。ここまででおよそ2時間ほどかかりました。



宴会場の清掃が終わると、各部屋の清掃へ。仲居さんたちが普段手が届かない高いところを脚立に乗って拭き拭き。磨き上げると経年変化にともなって飴色に変化した木の枠が、なんとも趣きのある光沢を放っていました。

清掃の説明のときに、仲居さんが「木を二度三度拭いてください。そうすると木が喜びますので。」という、何とも旅館に対する愛情が感じられる言葉が、とても印象的で、日々こうして大切にされてきた建物を「手入れ」させていただいている気持ちで、こちらまで嬉しくなりました。

17時過ぎに清掃が終わったあとは、まるで野球の攻守が入れ替わるように、お客さんにさま変わり。旅館の方々の温かいおもてなしを受け、温泉をゆっくりと堪能し、美味しい料理をたっぷりと味わい尽くしました。


翌朝、旅館の周りを散策。すぐそばを流れる川にかかっている橋は、映画「わが母の記」のロケ地になった場所だそうです。

「手入れ」と「おもてなし」を引き換えるボランツーリズム。体験して思ったことは、日本に息づく、“お互いさま”の精神です。他者のために何かを尽くすことで、それが自分にとっても糧になる。ボランツーリズムに限らず、人として大切な心持ちだと思います。初対面の方ばかりでしたが、素晴らしい仲間と時を過ごすことができて、とても有意義な時間となりました。来年もぜひ参加したいと思います。

落合楼村上旅館

2012年10月25日木曜日

伝統の中の“ひとかけら”


遠州地方に古くから伝わる「遠州綿紬 えんしゅうめんつむぎ」の新しい柄が織り上がりました。これまで季節感を軸にした柄の展開はなかったので、季節に合わせた柄の制作を進めていて、今回は「秋茜」「小春」「うぐいす」など、2012年度秋冬の新作となります。

こうした生地の創案に、デザイン監修として携わらせていただいていますが、生活に根づいて生まれた伝統文化には、和歌でいえば「詠み人知らず」のような誰が思いついた柄なのか分からず、それでも時代を超えて愛されてきたものも数多くあります。自分が担っている役割なんて、長い歴史から見ればほんの“ひとかけら”に過ぎません。先人への敬意を忘れずに、次の世代に少しでもいい形でこの文化が受け継がれていけばと真摯に思っています。

タテ縞が特徴の遠州綿紬。縞の幅や色合いを工夫するだけで、どこか懐かしく現代にも融合するデザインに仕上がるのが魅力です。そのさじ加減が難しい面ではありますが、ただ伝統を守るだけでなく、時代をとらえて少しずつ進化していければと思います。

2012年10月17日水曜日

30代と60代のコラボレーション

今日は地元で著名なある方とお昼をご一緒させていただきました。僕は日頃から世代関係なく話すのが好きで、自分が経験したことのない体験談や広い視野から学ぶことが多く、話していて勉強になるばかりです。特に、60歳で定年を迎える世代が、社会人として活躍の場が広がる30代に、培ってきた技術や養ってきた知恵を伝える重要性を、かねてから強く大切だと思ってきました。

そのせいもあり、63歳のその方からふいに出た「30代と60代のコラボが面白いんだよな〜!」という言葉に、まったく同じことを普段から感じていることに驚くとともに、深く共感しました。60代もそれを感じていたのか〜、と。

そもそも60代で前向きな方と話をすると、目を輝かせ、夢を語り、人生を心底楽しんでいる熱さに圧倒されることがあります。それは、時代の影響ももちろんあり、就職氷河期から社会人が始まった僕達の世代は「モチベーションを上げる」とか言ってしまいがちですが、モチベーションとかいう前に、身体からエネルギーが湧き出てくる感覚に近いと思います。

30代と60代といえば、跡継ぎの世代交代も多いかと思います。事業承継もやはりこの世代関係がキーワードでしょうか。30代と60代。子供と親の年齢差だと考えると、妙に気が合ったりするのもうなずけたりします。まあ年代を限らず「異世代イノベーション」のようなことが日本各地で起き始めると、これまでにない日本の魅力が生まれるかもしれません。

2012年10月14日日曜日

独立感謝祭


先日、独立に際してお世話になった方々や親友たちを招いて『独立感謝祭』を開催しました。仕事につなげるためにお客様を招くパーティではなく、あくまでも個人的に感謝を伝えたかったので、楽しくにぎやかにひとときを過ごしたい一心でした。類は友を呼ぶ、とはよく言ったもので、前向きでエネルギーのある人達が30名ほど集まり、とても活気あふれる会となりました。10年来の友人たちや尊敬する人生の先輩たちが出会い、つながっていく姿を見るだけで、自分としてはこの会を開いた甲斐があったと満足しています。

ところで、僕はよく「起業」ではなく「独立」という言葉を使うのですが、それには意味があります。それは「ある一定の業界でプロとしての腕を磨いてから“独り”で“立つ”」ことに意義を感じているからです。もちろん確固たるビジョンをもとに異業種に挑戦して起業することを否定するわけでは全くなく、“手に職をもって社会に役立つ”ためには「起業」ではなく「独立」の精神が必要だからです。小手先のスキルは一朝一夕で何とかなるかもしれませんが、プロとして請け負うための“考え方や責任”の部分を養うのには時間と経験が必要だと感じています。とくに「独」の中には「虫」がいて、“〇〇の虫”となるべく勉強の姿勢を常に忘れてはならないと思っています。

ただ、もちろん「独立」といっても独りでずっと立っていられるわけではありません。色々な方々に声をかけていただき、手を貸していただき、ようやく立っていられるのは言うまでもなく、その感謝の心を忘れてはならないと心に刻んでいます。まだまだこれから成長していく身ですが、お客様だけでなく身近な人への感謝も忘れずに、自分らしい人生を歩んでいきたいと思います。

http://55634t.com

2012年10月4日木曜日

日本の風景、地域の暮らし

先日、打ち合わせで山あいの牧場に伺ったあと、帰りに製材所に立ち寄りました。こちらの製材所には、地元の木材を天然乾燥で寝かせてから製材するため、丸太がゴロゴロと横たわっています。台風一過もあり、空は清々しいほど澄んでいて、丸太と山の陰影があいまって何とも美しい風景でした。

雑誌やテレビなどでよく「絶景スポット」が取り上げられますが、地域にはそれぞれ特性があって、そこに暮らす人が当たり前のように目にする光景が、実は絶景だったりするのだと思います。それは、簡単にお金に換算できない「地域の資源」でもあります。

地域に暮らす人が、その地域の良さにどこまで気づけるか。便利や娯楽いう観点で都会と田舎を比較して、田舎で暮らす人が「何もない場所だけど・・・」と言ってしまうことも多々ありますが、本当の日本の良さは田舎にこそ数多くあって、ひとつひとつの個性に気づき発信していけば、その魅力は自然と人から人へと伝わっていくものだと感じています。

こうして生産者の方を訪ねて話をすると、皆さん本当に実直な方が多く、日本の産地だけでなく風景までも支えていることに気づかされます。

2012年9月27日木曜日

短期的なブームと長期的なファン

ブランディングの相談を受けるときに、経営者の方から「ヒット商品を出したい!」と言われることがあります。ヒット商品は、売上を急激に上げる「特効薬」のように期待されているケースが多いように感じます。

しかし、もしヒット商品による急激な売上の増加を目指すのであれば、それはいつか「ブーム」として終焉し、急激な売上の減少を招くことにつながります。たとえば、一発屋と揶揄される芸人さんたち。テレビでいきなり露出が増えたかと思えば、一年後には見なくなる。このような「ブーム」は、商品や会社にも当てはまります。

一時的な売上よりも、長期的なファンの創出。すぐに効果が見えなくても、じわじわとファンを増やし、末永く売れる意味でのヒット商品。それをつくることがブランディングの役割です。

長期的なファンをつくるためにはストーリーが大切であり、そのストーリーを世の中に伝えていくことも必要です。1人でも多くのファン(顧客)をつくるストーリー。そのストーリーは、それぞれの経営者、社員の「志」にしか宿らないと日々感じています。そして、それをデザインやコピーで“見える化”して、世の中に伝えることが僕の指命だと思っています。

2012年9月20日木曜日

フラックス世代

アメリカを中心に「フラックス世代」と呼ばれる人たちが誕生している、と先日ニュースで知りました。フラックス(flux)とは「流動、絶え間ない変化」を意味し、未来が不確実な世の中で、流動的に自分のポジションを変えて、かつ楽しめる人のことを指すようです。

もうひとつの特徴は「未来志向」であること。過去のビジネスモデルや慣習にとらわれず、自分のスキルを活かして柔軟にベストな方策を決める。そして、フラックス世代は、IT系や広告業界に多く存在し、実は自分も「フラックス世代だよね」と言われたことがあります。

でも、そもそもいつの時代も「未来は不確実なもの」ですよね。そして、「自分のスキルを活かしてベストな方策を決める」のも、いつの時代もしかりだと思います。ただこうして「フラックス世代」と呼び名がつくことは、「草食系男子」のように1つの時代の流れでもあると感じています。

僕の周りの尊敬できる「フラックス世代」の方たちは、そのような呼ばれ方をされなくても、淡々と粛々と、自分のスキルを活かして社会に貢献しています。そして、何より自分の人生を楽しんでいます。名は体を表すけれど、本当に大事なのは中身。それを忘れずに日々前進あるのみです。

【ホームページ】http://55634t.com

2012年9月17日月曜日

社名の由来|55634

スキルがあって小回りがきく「個人」が活躍する時代。半年先さえ読めない今の世の中では、変化に対して俊敏に反応して舵を切れる「スモールビジネス(個人の力)」の需要が増してくると思います。法人だから信用できる、という社会認識も、いずれ変わってくることでしょう。

さて、そうした中で僕は「株式会社55634」という法人として起業をしました。個人で起業をするわけだから、個人事業主という選択肢がセオリーだと思いますが、デザイン業界では法人でないと受けられない案件も存在するので(どの業界もそうだと思いますが)、迷わず法人にしたわけです。

株式会社55634。数字だけの会社名は、55634=ココロザシという語呂が由来です。目に見えないクライアントの「志(ココロザシ)」を、デザインやコピーで「数字(55634)」のように分かりやすく伝える。そのような想いを込めています。

先述のとおり、会社名より個人の信頼に仕事が集まる時代だと感じているので、社名の由来も自分の中にだけ留めておいても良かったのですが、うれしいことに名刺を差し出すたびに尋ねられるので(数字だけの会社名が珍しいみたいで・・)ここに由来を記しておきました。

2012年9月13日木曜日

商品を最も輝かせる方法

デジタルカメラが普及して以来、ご自身で商品撮影をおこなう方が増えました。雰囲気を出しやすい手軽な一眼レフカメラが登場してからは、その傾向は強くなったように感じます。

しかし、カフェなどで雰囲気を伝えたい写真は別として、本気で“商品の魅力を引き出したい”のであれば、ご自身で商品写真を撮ることを僕は勧めません。プロのカメラマンには、商品の魅力を最大限に引き出すスキルがあると実感しているからです。

上の写真をご覧ください。これは商品撮影の現場ですが、撮影商品は『カバン』です。トートバッグを撮るだけでも、これだけの機材を使います。特にカメラマンは、ライティング(照明の当て方)のプロでもあり、アングルだけでなく陰影を絶妙に調整しながら、商品が最も魅力的に見える方法を探り、シャッターを押します。

クライアントに実際に撮影に立ち会ってもらうと「自分で撮るのとは全く違いますね」「やっぱり餅は餅屋ですね」「こんなにプロの撮影に時間がかかるとは思っていませんでした」と、口々におっしゃいます。ちなみに昨日はバッグを10点ほどで、5時間もかかりました。ホームページでもパンフレットでも、写真は重要な素材です。商品の魅力を伝えるデザイン、文章、写真の3つが交わることで、商品が最も輝く姿になるのだと思います。

2012年9月6日木曜日

あなたの「志」は目に見えますか?


7年間のコピーライター時代を経て、いよいよ独立することになりました。コピーライターの外山佳邦(とやまよしくに)と申します。これまで多岐にわたる業界のキャッチコピーや商品コピーを依頼される中で、経営者から「会社のイメージづくり」や「商品のプロデュース」について相談をされることが多くありました。

その中で、感じたこと。

それは、中小企業にはデザインの力が必要である、ということです。デザインというと「装飾的なもの」と思われがちですが、装飾的なものを考える前に、まずは会社としてどうあるべきか、商品の魅せ方をどうするべきか、そのような本質から考えます。もし商品自体に魅力がなければ、商品企画から携わることもあります。

そして、経営者の「志」を見える化し、価値ある商品の魅力を正しく伝えることを、ここでは「ブランディング」と呼んでいます。ロゴマークやパンフレット、ネーミングやホームページなど、お客様が“触れるもの”のイメージを作っていくことで、その会社(商品)ならではの固有の“らしさ”を築いていきます。

日経デザイン(9月号)の特集にもあるように『顧客を呼ぶ「売り方」のデザイン』が、今の時代のキーワードだと思います。長期的なファン(顧客)を増やし、売れ続けるためには、ただモノを大量に売るだけではなくストーリーが大切なのです。お客様が、商品ができるまでの背景に共感し応援してくれるストーリーを「見える化」することがブランディングの大きな役割です。

独自の技術や熱い思いでモノづくりに励んでいる、中小企業や個人商店の魅力を世の中に伝えるために、これからがんばっていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。