2012年10月30日火曜日

ボランツーリズム〜落合楼村上〜


「旅館の清掃」をすると、その対価として「宿泊代が無料」になる。この取り組みを主催するNPO法人サプライズの飯倉さんから声をかけていただき、「ボランティア」と「観光」を引き換える『ボランツーリズム』に参加してきました。

場所は、落合楼村上旅館。伊豆の天城湯ヶ島温泉にある老舗旅館です。4000坪もの敷地に、わずか15室。金山で財を成した資産家が明治7年に創業し、昭和初期に金山を売却して建て替えたそうです。その建築費用は、現代に換算すると25億円にものぼるそうです。





旅館に着くと落合楼のご主人、村上昇男さんが館内を約1時間かけて、じっくり解説をしてくれました。国の重要文化財である階段をはじめ、100年で3cmほどしか太くならない、樹齢およそ800年ほどの紫壇(しだん)の銘木を使った柱など、素材を見るだけでも凄みを感じる箇所が、館内のいたるところにありました。

  



そして、圧巻だったのは日本の伝統の技、組子細工(くみこざいく)。細部にわたり職人の手業が感じられ、釘や接着剤を一切使わずに、障子にはめ込まれています。200もの文様があるといわれる組子細工の中でも、最も難しいとされる技法を用いられた柄もあり、現代においては再現することすら容易ではないそうです。

 

そして、いよいよ清掃へ。108畳もある宴会場や廊下を20名ほどでキレイに仕上げていきました。電飾や窓ガラスなど、万が一にも割れた場合に、現代においては同じものが見つからないものもあり、とても慎重な作業となりました。





天井のすすを払い、窓ガラスのサッシを丁寧に吹き、最後はみんなで一列に並んで雑巾がけ。ここまででおよそ2時間ほどかかりました。



宴会場の清掃が終わると、各部屋の清掃へ。仲居さんたちが普段手が届かない高いところを脚立に乗って拭き拭き。磨き上げると経年変化にともなって飴色に変化した木の枠が、なんとも趣きのある光沢を放っていました。

清掃の説明のときに、仲居さんが「木を二度三度拭いてください。そうすると木が喜びますので。」という、何とも旅館に対する愛情が感じられる言葉が、とても印象的で、日々こうして大切にされてきた建物を「手入れ」させていただいている気持ちで、こちらまで嬉しくなりました。

17時過ぎに清掃が終わったあとは、まるで野球の攻守が入れ替わるように、お客さんにさま変わり。旅館の方々の温かいおもてなしを受け、温泉をゆっくりと堪能し、美味しい料理をたっぷりと味わい尽くしました。


翌朝、旅館の周りを散策。すぐそばを流れる川にかかっている橋は、映画「わが母の記」のロケ地になった場所だそうです。

「手入れ」と「おもてなし」を引き換えるボランツーリズム。体験して思ったことは、日本に息づく、“お互いさま”の精神です。他者のために何かを尽くすことで、それが自分にとっても糧になる。ボランツーリズムに限らず、人として大切な心持ちだと思います。初対面の方ばかりでしたが、素晴らしい仲間と時を過ごすことができて、とても有意義な時間となりました。来年もぜひ参加したいと思います。

落合楼村上旅館

2012年10月25日木曜日

伝統の中の“ひとかけら”


遠州地方に古くから伝わる「遠州綿紬 えんしゅうめんつむぎ」の新しい柄が織り上がりました。これまで季節感を軸にした柄の展開はなかったので、季節に合わせた柄の制作を進めていて、今回は「秋茜」「小春」「うぐいす」など、2012年度秋冬の新作となります。

こうした生地の創案に、デザイン監修として携わらせていただいていますが、生活に根づいて生まれた伝統文化には、和歌でいえば「詠み人知らず」のような誰が思いついた柄なのか分からず、それでも時代を超えて愛されてきたものも数多くあります。自分が担っている役割なんて、長い歴史から見ればほんの“ひとかけら”に過ぎません。先人への敬意を忘れずに、次の世代に少しでもいい形でこの文化が受け継がれていけばと真摯に思っています。

タテ縞が特徴の遠州綿紬。縞の幅や色合いを工夫するだけで、どこか懐かしく現代にも融合するデザインに仕上がるのが魅力です。そのさじ加減が難しい面ではありますが、ただ伝統を守るだけでなく、時代をとらえて少しずつ進化していければと思います。

2012年10月17日水曜日

30代と60代のコラボレーション

今日は地元で著名なある方とお昼をご一緒させていただきました。僕は日頃から世代関係なく話すのが好きで、自分が経験したことのない体験談や広い視野から学ぶことが多く、話していて勉強になるばかりです。特に、60歳で定年を迎える世代が、社会人として活躍の場が広がる30代に、培ってきた技術や養ってきた知恵を伝える重要性を、かねてから強く大切だと思ってきました。

そのせいもあり、63歳のその方からふいに出た「30代と60代のコラボが面白いんだよな〜!」という言葉に、まったく同じことを普段から感じていることに驚くとともに、深く共感しました。60代もそれを感じていたのか〜、と。

そもそも60代で前向きな方と話をすると、目を輝かせ、夢を語り、人生を心底楽しんでいる熱さに圧倒されることがあります。それは、時代の影響ももちろんあり、就職氷河期から社会人が始まった僕達の世代は「モチベーションを上げる」とか言ってしまいがちですが、モチベーションとかいう前に、身体からエネルギーが湧き出てくる感覚に近いと思います。

30代と60代といえば、跡継ぎの世代交代も多いかと思います。事業承継もやはりこの世代関係がキーワードでしょうか。30代と60代。子供と親の年齢差だと考えると、妙に気が合ったりするのもうなずけたりします。まあ年代を限らず「異世代イノベーション」のようなことが日本各地で起き始めると、これまでにない日本の魅力が生まれるかもしれません。

2012年10月14日日曜日

独立感謝祭


先日、独立に際してお世話になった方々や親友たちを招いて『独立感謝祭』を開催しました。仕事につなげるためにお客様を招くパーティではなく、あくまでも個人的に感謝を伝えたかったので、楽しくにぎやかにひとときを過ごしたい一心でした。類は友を呼ぶ、とはよく言ったもので、前向きでエネルギーのある人達が30名ほど集まり、とても活気あふれる会となりました。10年来の友人たちや尊敬する人生の先輩たちが出会い、つながっていく姿を見るだけで、自分としてはこの会を開いた甲斐があったと満足しています。

ところで、僕はよく「起業」ではなく「独立」という言葉を使うのですが、それには意味があります。それは「ある一定の業界でプロとしての腕を磨いてから“独り”で“立つ”」ことに意義を感じているからです。もちろん確固たるビジョンをもとに異業種に挑戦して起業することを否定するわけでは全くなく、“手に職をもって社会に役立つ”ためには「起業」ではなく「独立」の精神が必要だからです。小手先のスキルは一朝一夕で何とかなるかもしれませんが、プロとして請け負うための“考え方や責任”の部分を養うのには時間と経験が必要だと感じています。とくに「独」の中には「虫」がいて、“〇〇の虫”となるべく勉強の姿勢を常に忘れてはならないと思っています。

ただ、もちろん「独立」といっても独りでずっと立っていられるわけではありません。色々な方々に声をかけていただき、手を貸していただき、ようやく立っていられるのは言うまでもなく、その感謝の心を忘れてはならないと心に刻んでいます。まだまだこれから成長していく身ですが、お客様だけでなく身近な人への感謝も忘れずに、自分らしい人生を歩んでいきたいと思います。

http://55634t.com

2012年10月4日木曜日

日本の風景、地域の暮らし

先日、打ち合わせで山あいの牧場に伺ったあと、帰りに製材所に立ち寄りました。こちらの製材所には、地元の木材を天然乾燥で寝かせてから製材するため、丸太がゴロゴロと横たわっています。台風一過もあり、空は清々しいほど澄んでいて、丸太と山の陰影があいまって何とも美しい風景でした。

雑誌やテレビなどでよく「絶景スポット」が取り上げられますが、地域にはそれぞれ特性があって、そこに暮らす人が当たり前のように目にする光景が、実は絶景だったりするのだと思います。それは、簡単にお金に換算できない「地域の資源」でもあります。

地域に暮らす人が、その地域の良さにどこまで気づけるか。便利や娯楽いう観点で都会と田舎を比較して、田舎で暮らす人が「何もない場所だけど・・・」と言ってしまうことも多々ありますが、本当の日本の良さは田舎にこそ数多くあって、ひとつひとつの個性に気づき発信していけば、その魅力は自然と人から人へと伝わっていくものだと感じています。

こうして生産者の方を訪ねて話をすると、皆さん本当に実直な方が多く、日本の産地だけでなく風景までも支えていることに気づかされます。