2013年4月21日日曜日

くまモンの秘密

日経デザイン5月号『稼ぐ!キャラクター活用術』です。以前から「くまモン」と「ほかのご当地キャラ」には、決定的な違いがあると感じていたので、今日はその違いについて書きたいと思います。同じようにゆるキャラが語られている中で、実は「くまモン」にはヒットの理由があるのです。

行政の「覚悟」と「寛容」な姿勢
くまモンは、2010年に熊本県をPRするためのキャンペーン「くまもとサプライズ」のマスコットキャラクターとして発表されました。くまモンをデザインしたのは、グッドデザインカンパニーの水野学さん。ミッドタウン、NTTドコモ、宇多田ヒカルなど、名だたるクライアントを手がけるアートディレクターです。

熊本県からロゴマークのみのデザイン依頼を受けた水野さんは、熊本県をもっと効果的にPRする手法として「くまモン」というキャラクター戦略を提案。それを発注側である熊本県が、知事の判断で受け容れた形になります。

ここで、最も注目すべきは行政の判断です。ご当地キャラをはじめ、このような案件は公募によるものが一般的です。ゆるキャラを公募している自治体は、今でも数多くあります。しかし、公募の落とし穴として、選ぶ側に戦略的な専門家がいなければ、キャラクターを展開する上で戦略性に欠けるということです。くまモンにおいては、デザイナー側からの提案だったこと。キャラの提案は想定外だったけど(おそらく水野さんが著名で説得力もあり)行政が必要と判断したこと。つまり、「熊本県をPRするために必要な戦略」を取ったわけです。

デザインのクオリティを管理する
くまモン誕生当初からの担当課長は、本誌で次のように語っています。「無料で使用承諾している分、くまモンにとって、何かメリットがある使い方をしていただけるような提案を常に求めている。」許諾申請する際は、必ずデザインレビューを行い、官民が一体となってパッケージデザインに関わり、5〜6回打ち合わせることもあるそうです。これは、デザインの品質管理がされているということです。

狙ったところにヒットを打った
今や8000種類を超える商品に使われ、2012年に販売されたくまモン関連商品の売上は、200億円を超えています。水野さんは初めから「熊本県をPRするために」くまモンを提案したわけですから、正確な数字までは想定していなくても、このように爆発的なヒットになることを「ハードル」として考えていたと思います。つまり、ヒットを狙って打ったということです。

「熊本県をPRするために」くまモンは誕生したのであって、ほかのキャラクターに見られる「ゆるキャラを作ってPRすれば売れる」と、考えたわけではないということです。こうした成功例を見て、「おらが街にもゆるキャラを!」という事例があとをたちませんが、偶然生まれるヒットはあっても、狙いすましたヒットは、おそらくほとんど無いでしょう。それぐらい計算されたヒットだと思います。

こうして第三者的に見れば「見事なクリーンヒットだな〜」と感心するばかりですが、もちろん自分も、PRやデザインを提案する立場にあるわけですから、こうしたヒットを心の引き出しに入れて、今後に活かしていきたいと思います。

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